ログイン皇はすっかりデメテールに、AWMに心を魅了されていた。とてつもない莫大な金額がゲームで稼げるかもしれないという現実に。
そして、極めつけは親友である薊の言葉。薊とならまた楽しく、面白おかしく生活ができるだろうという期待。
薊からさし伸ばされた手を握ろうとデメテールを置けば。
『遊城家の会見では———』
デメテールの下にはテレビのリモコン。どうやらテレビをつけてしまったらしい。そして、丁度そこには皇の勘当を発表する記者会見の真っ最中の映像が流された。
テレビの画面に映るのは懐かしく会っていない父親。その父親の顔は記憶にあるより老け込んでいて。
(……当然か)
最後、皇が父親に会ったのは18歳の成人になる誕生日の日だった。その時も相変わらず冷淡に皇のことを見下ろして。
〝精々この家に貢献するんだな〟
そんな言葉と共にブランド財布を贈ってきた父親。
テレビをぼんやりと見て覚えるのは懐かしさと、もう会うことはないという疎外感と。
(こんなに老けてることも知らなかった)
10年も会っていないのだ、当然であろう。
でも、10年も会いに来なかった父親に恨みなんてものは皇は抱いてなかった。他のきょうだい達が遊城の家に貢献できている以上、皇にもその素養があったのだ。あったけど、開花させられなかった。だから、皇は淘汰されたのだ。そして、それが一族の掟なのだから仕方ない。
(俺が遊城の家に生まれたのがなにかの間違いだったんだ)
心がささくれる。だけど、そんな皇の思考を打ち切ったのは薊だった。
「んで、てめぇは俺と一緒にログインするか?それとも転売するか?決まったんだろ!?」
薊はデメテールの下のテレビのリモコンの電源ボタンを押し、テレビを消す。そして、俺に向かって八重歯を見せて笑うのだ。
そんな薊に向かって、皇は平身低頭土下座をして言うのだ。
「薊大先生~~~~!AWMのことご教授賜りたく存じ上げます~~~~!」
「おうっ、そうこなくっちゃなァ!」
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と言うことで、皇は薊に師事してもらい、デメテールを装着する。デメテールは首輪型デバイスだ。
原理は薊も分かってないようなので、その場で検索して分かったことなのだが。
どうやら、首の神経が集中する部分に着けることで体を動かす神経信号の指示をデメテールがキャッチし、それをゲームに反映するらしい。
皇は体が痛くなるのも構わずその場に寝転ぶ。そして、デメテールの電源を入れるのをお願いしようとしたそのときだった。
(なんだ……?もしかしてオート電源だったのか?でも、初回でオートってあり得るのか?)
視界が暗転する。そして、周囲の景色が変わる。そこはあの薊のアパートなんかではなく———。
「うっ……」
そこは、幼いころから何度も見てきた夢の景色であると皇は直感した。直感しただけで、もしかしたらAWMのチュートリアルが始まるのかもしれない、だが、そんな希望は打ち砕かれた。
「……夢、だな……」
皇は確信をする。だって、彼の目の前には〝居る〟からだ。なにが?その正体を確信を持って言うことはできない。
何故か、それは顔はローブに覆われて判別できず、その体躯は座り込んでいるせいでどんなものか判別できない。
ただ、そいつを男だと、それだけは絶対に言えた。この男はいつも皇に言うのだ。
〝救いに行け、お前にしかできない〟
なにを、どこで、だれを、何も教えてくれない指示。だけど、急かされているようでとても不快になる悪夢。それがこの夢だった。
男のローブで隠れてない顔の下半分が動く。
またいつもの言葉だろう、と辟易しながらも聞かなければ目覚めないので皇は嫌々耳を傾ける。
「行け、お前にしかできないことがある。もう時間がない……」
「え?」
「おい、ぼーっとしてるけど装着は終わってるぞ。電源、入れるぜ?」
気づくとあの暗い闇の空間ではなく、俺は先ほどの薊のアパートにいた。
(幻覚……?いや、白昼夢だったのか……?まあ、いいか)
今日は色々あって疲れていたのだろう。そう言う風に自分を納得させて、皇は改めて目を閉じた。
「首触るかんなー」
「おー」
薊のデメテールに触れる感触。そして、「あ」という薊の声。その声は……いうなれば、「完全に忘れていた」という意味合いを含んでいて。
「やっべ、言い忘れた!初回ログイン時は気絶するみたいな負荷があるが、すぐに収まる!それから、あっ、最初の回廊———ログイン時のNPCシーンで、プレイヤーとゲームとの適合度が評価されるからな!適合度が高いほど、ゲーム内での力が強くなるんだ!ちなみにトッププレイヤーでも80%だと」
とても早口な薊の声が遠くなっていく。そのことに対して思うことは1つだった。
(そう言うのは先に言えぇえええええええッ!)
だが、そんなツッコミは口から出ることも薊に届くこともなく、体の浮遊感。
皇は天地も分からない暗闇の中で浮いていた。
すると、目の前に<接続中>という白い文字が現れて点滅する。
それをぼけーっと見ていれば、文字が切り替わり天から女性の声が降り注ぐ。
「サーバーをご選択ください」
「あー……」
(薊はどこのサーバーにいるんだ?)
全く報連相ができていなかった。皇が悩んでいると、天から声が降り注ぐ。
「なにかお悩みですか?」
「あー……え、と、リア友と同じサーバーにしたいんだが、リア友にサーバーの名前聞き忘れて……」
すると、目の前に<AI 検索中>の白い文字が浮かぶ。ふんふん、あの声はただのチュートリアル音声じゃなくてAIが応答してくれてるのか。
(流石、ログイン機器で40万もブンどってくるゲームだ。さぞ、開発に金がかかっているのだろうよ)
「そのフレンドのお名前と携帯電話番号下4桁で照合可能です。照合しますか?」
「頼んだ」
「かしこまりました。では、情報をお願いします」
そう言われると、目の前にキーボードが展開される。
(甲斐堂 薊……えーと、電話番号は……5611……)
そして、皇がエンターを押すと、目の前に文字がポップする。
「Asia 59……?」
「そちらが、甲斐堂 薊様、プレイヤーネームアザカ様が登録しているサーバーになります」
(アザカ……ああ、アザミ、カイドウ、で上から文字を取ったのか)
皇は1人納得しながら、決定ボタンを押す。
そして、<接続中>の文字が現れ———。
「ようこそ。All World My hands.へ」
眼前に複雑で細かい光の通路が眼前に広がる。それは言い現わすならば時空のトンネルのようで。そして、その時空のトンネルは加速し、視界が開ける。
そこは大草原だった。開けた大草原、空は青くどこまでも澄み、風の吹く感覚は心地よく、多分どこかの外国に転移させられた、と言われても「そうか」と信じてしまうほどのリアリティだった。
そうして、皇は一際強く吹いた風に導かれるように振り向けば。
「っ……」
息をのむとはこのこと。皇は唐突に目の前に現れた……女性、と言っていいのだろうか。いや、女性と言う形容詞を押し付けるのすら失礼な気がしてしまう。天女、女神、いや、性別を超越し、全てを魅了するなにか、そんな存在に皇は声を失った。
そして、その存在は魅了するようににこり、と皇に向かって微笑んだ。
皇はすっかりデメテールに、AWMに心を魅了されていた。とてつもない莫大な金額がゲームで稼げるかもしれないという現実に。そして、極めつけは親友である薊の言葉。薊とならまた楽しく、面白おかしく生活ができるだろうという期待。 薊からさし伸ばされた手を握ろうとデメテールを置けば。『遊城家の会見では———』 デメテールの下にはテレビのリモコン。どうやらテレビをつけてしまったらしい。そして、丁度そこには皇の勘当を発表する記者会見の真っ最中の映像が流された。 テレビの画面に映るのは懐かしく会っていない父親。その父親の顔は記憶にあるより老け込んでいて。(……当然か) 最後、皇が父親に会ったのは18歳の成人になる誕生日の日だった。その時も相変わらず冷淡に皇のことを見下ろして。〝精々この家に貢献するんだな〟 そんな言葉と共にブランド財布を贈ってきた父親。 テレビをぼんやりと見て覚えるのは懐かしさと、もう会うことはないという疎外感と。(こんなに老けてることも知らなかった) 10年も会っていないのだ、当然であろう。 でも、10年も会いに来なかった父親に恨みなんてものは皇は抱いてなかった。他のきょうだい達が遊城の家に貢献できている以上、皇にもその素養があったのだ。あったけど、開花させられなかった。だから、皇は淘汰されたのだ。そして、それが一族の掟なのだから仕方ない。(俺が遊城の家に生まれたのがなにかの間違いだったんだ) 心がささくれる。だけど、そんな皇の思考を打ち切ったのは薊だった。「んで、てめぇは俺と一緒にログインするか?それとも転売するか?決まったんだろ!?」 薊はデメテールの下のテレビのリモコンの電源ボタンを押し、テレビを消す。そして、俺に向かって八重歯を見せて笑うのだ。 そんな薊に向かって、皇は平身低頭土下座をして言うのだ。「薊大先生~~~~!AWMのことご教授賜りたく存じ上げます~~~~!」「おうっ、そうこなくっちゃなァ!」----------
アパートの中に入ってすぐ右手の部屋に皇は通された。「とりあえず、此処はてめぇの部屋な。此処は俺は入らねぇようにするから好きに使ってくれよ」「え、まさか部屋まで……!?」 正直リビングの住人になるだろうことは必須だと思っていた皇は部屋を用意してくれていた、という事実に目を丸くする。「つっても大して掃除されてねーから、掃除するまではリビングで寝ても大丈夫だ」「いやいや、まさか部屋まで用意してもらえるなんて……うはあ……マジ大旦那様様……」「俺に惚れてもいいんだぜ?」 そう顎の下に人差し指と親指を立ててかっこつける薊。そんな薊に縋るように感謝を示す皇。(うん、本当性別が違えば確実に惚れてたわ) 皇は立ち上がってその部屋に恐る恐る入れば、部屋の入口の電気をぱちり、とつける。そこは狭い、テレビ一台が置かれただけの畳部屋だった。多分6畳もないんじゃないだろうかという狭さ。だけど、元の遊城の家よりも確実に落ち着く、いい部屋だった。 早速スーツケースを下ろす。1時間と少しの長旅でくたくたになった体が物理的に荷物を下ろしたことによって軽くなる。 そうして、肩の凝りをほぐすようにぐるぐると腕を回し、皇は早速大して内容のない荷解きをしようとスーツケースを倒して開けた瞬間だった。「はあああああああああああああああああああぁ!?」 唐突なる薊のビッグ声量。その声を聴いた皇の肩はビクゥッ、と爆発音でも聞いたかのように揺れる。(なんだなんだ……!?え、不味いもんもってきたか!?) 皇は恐る恐る家主である薊の顔を見る。ここで、追い出されるなんてことになったら相当不味い。だが、皇の予想に反して薊は———目を輝かせて皇のスーツケースの中身を見ていた。「お前、このゲームを持ってやがったのか! しかも二台!?これ、めちゃくちゃ高いんだぞ、知ってたのか!?」「え、ええ……知らん……」 困惑をしながら皇は薊にこのゲームを手に入れた顛末を話す。もちろん、R-18部分は取り除いて。彼女ともいえない元彼女から
皇がゆったりと振り向いて、そこに居たのは。「何か用か、我が妹よ」 そう、妹。この家の皇以外のきょうだいの中で一番年上の長女だった。「自分から出ていくつもりなら好都合よ。この縁切り証書にサインして」 そう兄に対して上から目線で行ってくるのは遊城《ゆうき》 茜《あかね》。茜はふう、と息を吐きだして続きの言葉を口にする。「本当なら今夜の発表会のあとに署名させる予定だったけど、面倒だから今ここで済ませましょう。……貴方も出ていくつもりらしいしね」 そう床に高そうなボールペンと質のいい紙が投げ捨てられる。 長女の瞳はもう皇に対してなんの感情も抱いていなくて。……強いて言うなら面倒くさい、だろうか。(普通に渡してくれ)皇はその長女の高慢な態度にうんざりとしてしまう。だが、そんなことを思いつつもスーツケースが剥奪される様子はなくてそのことに皇は胸を撫でおろした。同時に、見ものだ、と言わんばかりに使用人たちが集まってきて。妹と弟も屋敷の2階の欄干に凭れ掛かって、悪意マシマシの笑みを浮かべながら皇と長女を……いや、皇だけを見ている。「あら、ついに大旦那様……」「もう大旦那様じゃないだろ」「次期当主の茜様に失礼だろ?あれを大旦那様だなんて……」「そうでしたね」 くすくす、くすくす、使用人たちの隠す理由もない悪意が皇に降り注ぐ。真っ当な神経をもつ人間だったらここで傷ついたり、恥をかかされた、と思うのだろうが……。(とことんやるなぁ……) それが皇の感想だった。しかも、使用人に対してではない、長女に対して、いや、遊城の家に対して、だ。普通、親子の縁切り話なんて恥の付きまとう話だ。それを公表しようという神経をまず皇は疑う。(しかも、証明書まで書かせるとはな……) 皇は用紙を緩慢な動作で拾い上げ、念のため、自身の不利になるようなことが書かれてないかを確認する。 そうして、10分ぐらいだろうか。内容は要約するとこんな感じだった。「はー……つま
———とあるボロアパートの一室。 それは皇との通話が繋がった瞬間だった。彼はいてもたってもいられずに声を上げた。「だーっはっはっはっはっ!」 その笑い声は歓喜の笑い声だった。また、あいつ———皇の側にいられる、皇を助けることができる。そんな思いで、口がはやる。「はははっ、聞いたぞ!いや、どこから聞いたかは言えねぇが!覚悟はとっくに決まってんだろ?俺様を頼るんだろ?今夜から寝るところがねぇって話じゃねぇか!はははははっ」 そんないてもたってもいられない風にはしゃぐのは、身長は自動販売機より少し大きいぐらい。茶髪を無造作に後ろで束ねた、少し目つきの悪い———甲斐堂 薊と言う男だった。 薊は通話先で沈黙を保つ皇に対して、出方を待つ。……と、同時に少し過度に明るく接し過ぎたか、とも不安を覚える。 もしかしたら、家族との別れを惜しんでいたかもしれない、もしかしたら、家から離れたくなくて、その現実を受け入れられないのかもしれない。(ヤベ、ミスったかァ……!?) 薊は内心焦りながら、電話先の反応を待っていれば———。「ありがたき幸せに存じます、大旦那様! 今すぐ荷物をまとめてご恩にすがりますゆえ、どうかこの私めをお見捨てなくぅぅ」 そんないつも通り、というか、いつもより少しふざけているような皇に内心ホッ、と息を吐きながら言うのだ。「はっはっはっ、まあ、つっても極狭ボロアパートなのは容赦しろよ?皇んちに比べれば犬小屋もいいところだからな」「めっそうもございません!広いだけしか取り柄のない我が家と違って様々な知恵と工夫が取り込まれているじゃないですか~」 少しの応酬で皇が気落ちしていないことを確認すれば、薊はその様子にニッ、と口角を上げて言うのだ。「つーことで、アレか。今日は引っ越し祝いになるのか?」 そう言うと、間が開く。すると、電話先で空気を吸い込む音が聞こえる。(これは) それは、皇の考える時の癖だった。そして。「たし、かに……?ていうことは……?」「つー
———シャワールーム。(最ッ高……) 瑠奈はと言えば、皇の部屋備え付けのシャワールームで足をガクガクと震わせながら壁に手をついてなんとか立っていた。 その頬は紅潮していて、息は荒く、興奮を隠せない様子で。 そして、ついに立っていることができなくなった瑠奈はその場に崩れ落ちる。「は、はあ……はあぁ……」 瑠奈は皇のちんぽに耽溺していた。今の皇にはなんの価値もなかった、そのちんぽ以外には。 瑠奈は皇に出された精子をそのまんこから掬い、それを見て艶のある笑みを浮かべる。 皇にはもちろん、リズム感なんてない。だから、ただ我武者羅に腰を振っているだけ。少し痛いときがあるのがたまに傷ではあったが。 ……だが、そんなセックスは溺れるほどに気持ちよくて。思い出すだけで、もう一回まんこに指を挿入してまさぐりたくなる、そんな気持ちよさがあるものだった。「これが最後だなんて……いや。元大旦那様は私のものよ……」 瑠奈はシャワーに濡れながら怪しく微笑む。そうして、自らの下半身に手を伸ばし、精液のヌルつきをクリトリスに塗り広げながらシャワーの音に塗れて小さな喘ぎ声をあげる。(大旦那様ッ……大旦那様ッ……) 瑠奈が執着しているのは皇のちんぽに、なだけのはずなのに瑠奈の脳裏には皇の顔が思い浮かんでいた。 そして、瑠奈も認めたくはないが理解していた。 本当は皇自身に惹かれているということ。皇はなんだかんだいつも瑠奈の無茶振りに応えてくれて、瑠奈を見放さないでいてくれて、瑠奈に優しくしてくれて。 それが船寺の家の女性を接待するため。と言っても格上なのは遊城の家、乱暴に扱うこともできただろう。 でも、そんなことはせず瑠奈を船寺 瑠奈としてではなく、ただの瑠奈として接してくれた初めての人間なのだ。「あっ……ああっ、すめ、らぎッ……」 クリトリスを弄る手が激しくなる。指で強めに摘まんで、指の腹で押しつぶすように擦って。 シャワーの音で消える程度の喘ぎ声、そして。「っ~~~~~~」 足をM字に開脚し、歯を食いしばり、シャワールームの中で1人空しく果てる。「でも……もう、貴方はあの約束を……」 浮かぶのは過去の情景。そして、皇の顔。ただの優しいだけの無能でなんの才能もない人間。(……ちんぽは別だけど) そして、夢想する。(もし、私がただの瑠奈であんたが
(はは、嫌になることすらもう飽きたな……) その日は酷い雨模様だった。風は轟々と吹きすさび、雨はバチバチと窓を叩くように打ち付けた。 彼は髪の毛に指を通してくしゃりと、髪の毛を抜いてしまうのではないかというぐらい強い力で握りしめる。 彼は全てにおいて才能がなかった。勉学も、商才も、美的なセンスもゲームのセンスも。彼には全てがなかった。 もちろん、努力と言われることは一通りしてきた。優秀な教師にもついてもらって教えを請うた。———誰一人例外なく、匙を投げたが。 そうこうして28歳。彼の家ではあり得ない、無職の引き籠りが誕生した……それが、彼。遊城《ゆうき》 皇《すめらぎ》である。名前だけは大層立派な、遊城の家の期待を込められ、裏切り続けている長男である。そして、長男である故、まだ、ギリギリ見捨てられずにいた。 でも、皇は考えていた。(正直時間の問題だろうな……) 時間の問題、そう、それは皇が遊城の家から見捨てられるまでのタイムリミット。 だからこそ、焦っていた。焦って、焦燥感に胸を焦がし、自暴自棄に至っていた。(……もういっそ、役立たずだからとマグロ漁船にでも放り込んでくれれば諦めがつくのに……) そんなことを考えていると、扉がコンコン、とこぎみよく叩かれた。「……はい」「私よ。早く開けなさい」 よく通る、声だけで分かる高慢ちきさ。それは皇の家から宛がわれた彼女、船寺《ふなでら》 瑠奈《るな》だった。高慢ちきのおまけに拝金主義だ。 皇は知っていた、瑠奈が自分のことをどう思っているかを。遊城の家とのパイプで、振ればお金が出てくる財布程度にしか思っていないことを。 ……そんな、彼女と言っていいかすら怪しい女。それが瑠奈だった。 皇はのそり、と立ち上がれば不快な揶揄い方をされないために、念のため指輪型端末『リムレット』のカメラ機能で自分の身なりを整えようとして……気づく。(あれ、瑠奈早くね……?) 瑠奈はいつも皇と合う日は遅刻上等で。酷いときなんと3時間近く遅刻してくる……と言うのに、今日は時間通り。(ま、親父から注意でもされたんだろうな) 皇の言うことは聞かなくても、遊城の家の当主である父親の言うことは聞く。瑠奈はそう言う女だと皇は痛いほど知っていた。 皇はインカメラで自分の姿がいつも通りであることを確認すれば、扉を開けた。